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4章
1回目のデートは定番も定番、映画館に行くことになった。家事代行を頼んだ水曜日に、縁の家で食事をしてから二人で映画館に向かう。
話題作とは言いがたい洋画だからか、平日夜のミニシアターはがらんとしていた。後方のシートに並んで座ると、まるで貸切のようだ。
後からぽつぽつと入ってきたのは仕事帰りに立ち寄った風のサラリーマンが一人と、付き合いたてなのかべったり寄り添うカップルだけだった。
フッと辺りが暗くなって間もなく、三列前に座るカップルの影がゴソゴソと揺れていることに気づいた。あの動きは間違いなくキス以上のことをしている。
――こ、こういうときって、どうしたら……。
映画に集中しようにも、あまりにもストーリーが単調で話が全く頭に入ってこない。かと言って盛り上がるカップルを見ているなんてただの覗き行為だ。
――気まずいなぁ。
ソワソワと視線をさまよわせるのをやめて、足元に視線を落とす。
視界にカップルの姿が入らなくなってホッとしたのも束の間、指を絡めるようにして伊住に手を繋がれた。
「っ……」
驚いて肘置きに置いた手を引っ込めようとしたけれど、逆にがっちりと手を握り込まれる。その状態で伊住は「スキンシップ、スキンシップですよ、縁さん」とささやいた。
恋愛代行をはじめるにあたり、伊住と相談して事前にいくつかのルールを決めていた。
その一、週に一度はデートをすること。
その二、デート中はスキンシップを取り入れること。
その三、デート中に一度はキスをすること。
その四、期間内でもスランプを脱した時点で終了すること。
スキンシップとキスの提案をしたのは縁だ。
恋愛に控えめな縁の性格では、デートと言ってもただの外出になりかねない。それを打開するためにこのルールに取り入れたのだが。
「え、映画館で、こんなこと、してもいいの?」
まさかこんなに早く伊住が動くとは思わなかった。
映画を見て、そのあと軽く散歩でもして、帰る間際に軽くキスして終わりだと予想していただけに、動揺が隠せない。
「平気ですよ。誰も気にしてませんから」
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