1章

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伊住が手早く作業に取り掛かるのを見て、縁は隣室に退散する。 仕事部屋と寝室を兼ねたこの部屋も雑然としているが、まだ人間が活動できるスペースは確保してある。と、縁は思っている。 窓際に沿って置かれたPC用デスクに向かい、カチカチとマウスを操作してメールソフトを立ち上げた。特に急ぎのメールはなさそうだ。 作業に集中しなくてはならないのに、いまいち集中できない。 直が一方的に頼んだ家事代行サービス『リリー』がどんな評判を得ているのか、軽い気持ちで検索したのがいけなかった。短時間の室内清掃もあれば、料理の代行まで承っているという。料理の代行はちょっと惹かれるものがある。 ユーザーがつけたレビューを一通り流し読みしてから、縁はふとあることに思い至った。 「こういうときって、何か飲み物とか出したほうがいいのかな」 生憎と食料はないが、緑茶や紅茶、コーヒーの種類だけは豊富に取り揃えている。 どれくらい掃除が進んでいるのか確認がてら、コーヒーの用意をする。 どうせ作業は止まっていたのだから、ついでに自分用のコーヒーも淹れよう。
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