薔薇は赤く

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 授業でマザーグースの和訳をやる事になった。私はこのクラスで唯一の男子生徒と一緒に、ノートを挟んで予習をしている。 「薔薇は赤く菫は青い。 砂糖は甘く、君もまた同様である」  私がそう訳すると、向かいに座っている彼が納得のいかない顔で、訳文が少し堅いと言う。それならばどう訳せばいいか手本を見せろと、つい言い返してしまった。  彼は少し考える素振りを見せてから、言葉を口にする。 「薔薇は赤く菫は青い。 砂糖は甘く、まるで君のようだ」  自分で言いだしておきながら、声楽で鍛えている彼の甘い声でこんな事を言われたら、心臓に悪い。  これは意訳だけれど。そう言って笑う彼の顔をまっすぐ見ることが出来なくて、授業中は上の空だった。
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