SilentMoon ～六つの月～

第一夜 「闇を駆るもの」

１．メイド喫茶「Silent Moon(サイレント・ムーン)」

　周囲の華やかな看板たちとは少し異なった、クラシカルな外装が施された店先。落ち着いた色合いでありながら、自然と目を惹くその扉の向こうに、メイド喫茶「Silent Moon(サイレント・ムーン)」がある。
　15卓程が並ぶ店内には、この店のオリジナル・メイド服を着用した店員が静かに行き来している。編み上げでまとめられた胸元と、Ｖ字にカットされたヒップからフリルが覗く少し短めのスカート。メイド店員が歩く度に特徴的に揺れるそれが、客の男女を問わず人気となっていた。

　この店では、コンセプト・カフェならではの、そういった細かな演出が随所になされている。例えば多くのメイド喫茶がそうであるように、男性客を「ご主人様」、女性客を「お嬢様」と呼び、「お屋敷にご帰宅する気分」を味わってもらえるよう演出している。

　また、店内でメイド店員同士が業務伝達を行う際は、極力大声を避け、「メイド・サイン」によるやりとりが行われるのも特徴のひとつだ。いわゆる野球のバッテリー間のように、片手の指を使ったサインによって必要な情報を伝える。