第一夜 「闇を駆るもの」

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 これは、ご主人様、お嬢様に少しでも静かな落ち着いた時間を過ごしてもらうために考案されたサービスなのだが、新人メイドにとってはこれをマスターすることが高いハードルとなっていた。 「そのくらい覚えられないようなバカは、この店にはいらない」 とは、新人に厳しい先輩メイド・凜華(りんか)の弁。手厳しい一言だが、その言葉の通り、この店で働くにはそのくらいの「気合い」がなくては続かないということなのだ。 カランカラン…… 「お帰りなさいませ、ご主人様」  扉に取り付けられたベルがご主人様の来店を告げると、メイド店員全員がお約束の台詞で出迎える。  初めての「ご帰宅」だろうか。少し戸惑い気味のご主人様を、本日の出迎え担当の弥桜(みお)が席へと案内する。その間にキッチン前担当の粉雪(こゆき)がメニューなどを用意し、弥桜(みお)と入れ代わりに給仕を行う。  この、日ごとに決められた「立ち位置」による役割分担も、心地好く過ごしてもらう工夫のひとつだ。  立ち位置を分散させる事によってメイド店員が一カ所に集まる事を避け、全体に行き届いた均一のサービスを提供する。また、どの卓の近くにも必ずメイド店員がいるため、ご主人様、お嬢様方が声を掛けやすく、コミュニケーションの促進にも一役買っていた。この何気ないコミュニケーションが、この店に多くのリピーターを生むことにも繋がっているのだ。     
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