第一夜 「闇を駆るもの」

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第一夜 「闇を駆るもの」

0.はじまりの場所 ガシャーン…… 「きゃぁぁぁ、ごめんなさいぃっーー……」 「なぁーぎぃぃーーーっ!!」  いつもの様に、けたたましい声が響きわたる。  ここは、架空の街「アキバ」。電化製品を扱う様々な店が軒を連ねる、この国で最も大きな電気街だ。家電からゲーム機にパソコン、はたまた小さな電気パーツに至るまで、所狭しとひしめき合っている。そんな活気溢れる街には、一見不釣り合いにも思える、もう一つの顔があった。  街の中央を走る大通りから二筋ほど奥に入ると、少し年期の入ったビル群が建ち並ぶ場所に行き当たる。その雑居ビルの所々に設置された、一際目立つ華やかなキャラクターの看板たち。それがこの街のもう一つの顔、「萌え」文化の聖地としての顔だ。  パステルカラーで彩られたそれらによって、本来なら殺風景なはずの路地が賑わいを見せている。このもう一つの顔がこの街を活気づかせているのも、確かな事実であった。  そしてその一角で、それらのキャラクターたちとはまた一味違う、独特の雰囲気を醸し出している場所がある。この街の所々に点在している、「萌え」を売りにした飲食店がそれだ。その中のひとつに、決して大きくはない店舗ながら、休日には店外に行列ができる人気店がある。それが、メイド姿に扮したウェイトレスが接客を行うコンセプトカフェ、メイド喫茶「Silent Moon(サイレント・ムーン)」である。  そこでメイド店員として働く凪姫(なぎ)は、デビューから僅か三ヶ月足らずの新人メイド。しかしながら、その愛嬌のある特徴的なキャラクターがあっという間に浸透し、誰もが認める「ドジっ娘メイド」という不名誉な称号が定着しつつあった。 「まぁ、凪姫(なぎ)だからねぇ……」  そんなどこにでもあるメイド喫茶の日常。しかし、彼女たちはもう一つの顔、非日常の顔を併せ持つ--。
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