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「……中野くん」
ジャージなんて野暮ったくて、誰が着ても同じはずなのに、彼は手足が長いからか、どことなく垢抜けていてモデルのように見える。
でも、顔を見れば長めの前髪が目にかかっていて、覇気のない表情も相まって暗く感じた。
正直、クラスで目立つことがない彼のことを、この時まで、私はあまり気にしたことがなかった。
同じクラスになって、まだ一度も話したことがなかったのに、どうして今、目の前にいるんだろう。
痛みでぼやけている頭で考えていると、何も言わずに私の手を取って、優しい力で砂を払い始めた。
傷には触れないように、慎重に。
手が綺麗になったら、足の方を。
何も言わずに黙々と払っていくのを、私は茫然と眺めていた。
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