第1章

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 ダブルベッドとドレッサーがあり、他の家具はすべて天井まで壁に作りつけてあった。先生と結婚したときに、女の実家で買ってもらったマンションだそうだが、贅沢な作りだ。  そっと踏みこむと、毛足の長いラグに爪先がうもれた。彼女のベッドもぴんと片付いていた。ベッドカバーの上から手探りで枕を探す。  背中で空気が動いた。  「そこ、トイレじゃないんだけど」  ゆっくり振り返る。  女は腕を組み、ドアの枠にもたれていた。  俺は咳払いを一つしてベッドから身を起こした。間延びした声を出す。  「あれ、間違えた」  近づいたが彼女は逃げない。  息がかかるほど耳の近くに顔を寄せた。  「いくつか、あなたの失われた結婚生活について質問したいんだけど」  女はぐいと首を振り、しっかり俺に目を合わせた。  「それは調査上必要なの? それとも個人的な興味?」  きれいな指が伸び、俺の頬に冷たく触れた。仕事のある日はマニキュアをしないようだ。体の芯がぞくりと痛む。  そのまま指先は唇をなぞる。  「ねえ探偵さん」  「はい」  かすれた返事しかできない。  「口開けて」  「え?」  間抜けな声で聞き返した。  「いいから! 大きく!」  女は強引に俺の口をこじ開け、喉の奥をのぞいた。  「気道が狭まってるみたいだけど、ちょっと暗くてわからない。はい、大きく息を吸って、ゆっくりと吐く」  今度は耳をぴったりと胸にあてた。柔らかな髪が喉にあたる。  「ちょっと引っかかるね、朝晩、痰がからむでしょ」  ちょうど咳が出かかり、俺は口を押さえた。  「タバコやめて、薬使えばずいぶん楽になるわよ。まずは病院の呼吸器内科に行って、ちゃんと診てもらいなさい。面倒な病気でないといいわね」  にこりとし、背中をばんとはたいた。  こっちも笑おうとしたが、口がうまく動かない。  女は笑いをしまいこんだ。  「今回は助かった。だけど、これっきりにしてちょうだい、もぐりの探偵さん。今度はあっちについたの? 素敵な身の軽さよね」  「ちょっと待ってよ、誤解しないでくれ」  手を握ろうとしたら、するりとかわされた。  「あなた、相当な自信家みたいだけど、これ以上、私やゆきのまわりを嗅ぎまわったら、ためらいなく警察に通報するからね。あなたは小学校の先生ではないから、その程度では社会的に抹殺されないでしょ?」
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