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ひぐっちゃんは別にいやがってるわけでもないらしいけど、とにかく元気がない。だまりこくって、ぼんやりした顔で、あんなにもらったあめを口の中で転がしていた。
あたしはじっと横顔を観察した。
ケガもしてないのに自分から病院に行くなんて、本当にぐあいが悪いのかもしんない。
受付を通ったら、血を抜かれたり、息をはいたり、エックス線写真をとられたり、いろんな検査を受けさせられた。それで疲れちゃったのかな。
あたしはひぐっちゃんの手をにぎった。いつもだったら、「くっつくな」とかいってふりはらうのに、今日はにぎられたまんまだ。がさがさして冷たくて、かさぶただらけの手だ。
「どこか気持ち悪い?」
ひぐっちゃんはゆっくりあたしを見た。なにか話そうと口を開けたが、出たのはいちごのかおりのため息だった。
ぽーんと、音がして、新しい数字が大きなテレビに映った。
手にした受付票と数字を見くらべる。
「ちょっと、行ってくるわ」
かすれた声で立ち上がって、ぼりぼりあめをかみくだいた。
ずっしり重いコートをあずかった。
たくさんあるドアの一つに消えていった背中を見送って、あたしはコートをぎゅっとにぎった。
■
胸のエックス線写真が貼られた。
日頃は慎み深い骨と肺をあからさまにされ、思わず、丸椅子の上で体をよじった。
医師は検査結果と問診票を交互に見ている。
「小さいときにじんましんがあったの?」
「はい、高いハムとか食べると」
「とりあえず、胸の音を聞かせて」
聴診器と同じくらい冷たい指先があたる。
大きなため息をつくうちすぐに済んで、医師はPCのマウスをかちかち鳴らし、手元の紙にさらさら書きこんだ。ペンを走らせながら簡単に言った。
「やっぱり気管支喘息でしょう。薬で様子をみましょう。しゅっと吸う、粉の薬を出しますから、朝晩ちゃんと吸ってください。そのあと必ずうがいをすること。で、タバコはもちろんダメ」
「夜眠れないんです」
医師はやっとこちらに顔を向けた。
「そんなに咳がひどい?」
俺は芝居がかり、胸をかきむしる動作をする。
「いえ、咳というより胸が苦しいんです。やっと眠っても、怖い夢ばかり見て」
医師は少しばかり面白そうな顔になった。こちらに椅子を回し、足を組んだ。
「どんな夢?」
うまい具合に返せなかった。
「内容はまあ……恥ずかしいので勘弁」
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