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「なんだか、あのレストランで見た先生のほうが、まぼろしだったみたい。先生はあたしの顔見てもなんにもいわないし。でもね……」
歩きながら、てかてか光るゆかと自分のつま先を見た。
「氷室先生は変わらないんだけど、この前の職員室の前の……あれを、見てた人がいっぱいいたから」
「あれって、美人にぴしゃりって、やつ?」
ひぐっちゃんは、ピンポンのすぶりみたいにうでをふりまわす。
「かげでこそこそいう子とかいるの。ほかのクラスにもうちのクラスにも。なんかヤな感じ」
あの場にいたスカシの洋が、なにもしゃべんないのはうれしかった。けっこう見直しちゃったかも。
「俺だったら、自慢だけどな。あの女はポイント高かった。うらなり先生は男を上げたよ。まったく子どもってのは、ものの価値がわからんのだなあ。俺も叩かれてえ」
あんまりくだらないのでムシしようとしたけど、急に思い出して、顔を上げた。
「あ、そうだ、こないだのカンニング、自首してがっつり怒られたんだから」
「カンニング?」
ひぐっちゃんは髪を耳にかきあげ、首をひねった。全然思いつかないみたい。
「図書室で、多摩川さんが資料探し手伝ってくれたでしょ。あれも、自分でやんなきゃいけなかったんだよ」
「リポートにまとめたのは、みずきの実力じゃん」
「おかげで、スカシの洋といっしょにいのこって、作文三枚書くハメになったんだから。多摩川さんにもいっといて、すっごいめいわくでしたって」
ひぐっちゃんはへっぴりごしになって、あたしに顔を近づけた。
「鏡子さんにも言う?」
「かくして、アイスマンからチクられたらどうするの? それこそヒサンよ。もちろん正直に告白します。ワシントンの伝記、知らないの?」
「それ、俺の発案だからね、多摩川は関係ないから」
あたしは目を細くして、ひぐっちゃんを見た。
「ヘン」
ひぐっちゃんは背筋をのばして、目をそらせた。
「さて、なんのことやら」
「前から聞きたかったんだけど、ひぐっちゃんって、いつから多摩川さんとそんなになかよくなったの? 二人そろって学校来たりして。あれ、どっちがさそったの?」
ひぐっちゃんはすたすた早足になって、先に立った。
「仲良くちゃいけませんか? 悪いよりずっといいでしょ。仲良きことは美しき哉なんですよ。武者小路実篤知らないの?」
あたしはさっさと追いついた。
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