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この前発表会で三年生がやった「キツネのよめ入り」のお面みたい。
ひぐっちゃんはあごをちょっと上げた。なんでもないふりをしているけど、うっすら汗かいている。
あたしはコートの後ろから、そっと顔を出した。
「今日は、どのようなものを?」
髪をぴったりまとめた店員さんは、きらりおでこを光らせた。
うすよごれたコートのあやしい男と、ランドセルをしょった、これまたうすよごれた子どもが入れるほど、この店のエレガント度は低くないわよ、とでもいいたそうだった。
「あー」
ひぐっちゃんはこぶしを手にあてて、目をきょろきょろさせた。
「指輪を……」
「指輪?」
「はい……」
ぽりぽりさかんにほっぺたをかいている。
「ご婚約ですか?」
店員さんの顔は、少しほぐれてきたようだった。
「いや、まだそこまでは……」
ひぐっちゃんは鼻もほっぺも真っ赤になってしまった。
あたしは口を開けて、その顔を見た。えんぎなのだろうか、本気なんだろうか。
店員さんは、えんぎだなんて思わなかったらしい。にっこりうなずいた。
「ええ、すぐにお待ちします。相手の方のサイズはご存知ですか?」
かぎをかちゃかちゃいわせて、ショーケースを開いた。
「サイズって? 24.5とか?」
また「たすけて」の顔で、あたしを見下ろす。
「くつかよ」
すかさずつっこむ。
「たしか、指輪は何号とかいうんだよ。十一号とか、十三号とか」
「お嬢様、よくご存知ですね。あとでお直しもできますけど」
ビロード台に、きらきら指輪がいくつも置かれた。
うすよごれたおじょう様は思わず、息を吸いこんだ。
「うわ、きれい」
ひぐっちゃんはダイヤのきらめきよりも、ひもでくっついている小さな値札のほうに気をとられてる。さっきまで赤かった顔がまたもや、さーっと青くなった。
「ちなみに、うちのおかあさんは十一号だよん」
ひぐっちゃんのまゆ毛が、けわしくなった。
「なんだか、俺、形而上学的な命題をつきつけられたような気がする」
「はあ?」
あたしと店員さんが、いっしょに聞き返した。
その間も、ひとりごとのようにぶつぶつつぶやいている。
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