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「貴金属を人に贈るとは、そういうことです。時に流されることのない、崇高な約束を贈ることなんです。だからこそ意味も価値もある。お客様は大切な方に贈られるのでしょう?」
「んあ……まあ、ね」
なんだかごまかすみたいに、ひぐっちゃんは目をそらした。そっと金の指輪をつまんで、天井のダウンライトにすかした。
「約束を贈る、か。うまいこと丸めこまれたなあ」
宝石店を出て、あたしはそっと横を見た。
小さなビロードの小箱をコートのポケットにつっこんで、ひぐっちゃんはいつもと変わらなく見えた。
「ねえ、」
いいかけて、口を閉じた。
質問は口の中までふくらんでいるけど、やっぱ外に出せない。聞いちゃうと、取り返しがつかない気がした。
歩きながら、色々想像しちゃう。やっぱ指輪をあげるときって、男の人はひざまずいたりするんだろうか。
あたしはさっきから、ため息ばっかついてる。
知らない女の人の前にひざまずいているひぐっちゃんなんか、想像したくない。したくないのにしてしまう。それから、結婚式をして、子どもができて……そこらへんのよそのおとうさんみたいになっちゃうの?
ぶんぶん、首をふったとたん、頭をぐわっとつかまれた。
「ノミでもいるのか?」
ひぐっちゃんは、ぐいとあたしの顔をつかんで上げた。口のはしがにっと上がった。
「おつかいは済んだから、寿司、喰いにいこうぜ」
ビールのジョッキをあっという間に空っぽにして、幸せそうに息をはいた。
「はあー、これだな」
買い物はずいぶんイヤだったみたい。
「好きなだけ、注文しなさい」
えらそうにいいながら、コンビーフぐんかんとサーモンあぶりやきの皿を見つけて、ひろいあげる。
こういうネタがあるから、一皿100円(税抜)の回転寿司だってすぐにわかる。
「おっと、一貫握り、注文しちゃおうかなあ……いやいや、もったいないかも」
メニューを見ながら、はげしく検討している。
「やっぱ、貴金属より寿司だよな。俺が女だったら、指輪くれるよりも、いつでも寿司おごってくれる男のがいい。みずきもそう思うべ?」
あたしはさっきから、お茶ばかり飲んでいた。食べながら立て続けにしゃべるひぐっちゃん、なんかイラっとくる。
「じゃあなんで、指輪なんて買ったの?」
思わず質問をぶつけていた。
ひぐっちゃんは、ぽかんとした顔でおはしを止めた。
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