第1章

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 あたしはすっかり、やさぐれた気分でテーブルにひじをついた。  店を出たときには、おなかとこうかいの両方が重たかった。  外はまだまだ明るい。あたしは自分のおでこを、ぺんとたたいた。  「忘れてた」  ひぐっちゃんがふりむく。見えない血は、どうにか止まったようだ。  「ん? ああ、お礼なんかいいよ、みずきさんにはいつもお世話になってるもん」  やさぐれ気分がだいぶ残っていたあたしは、ななめにひぐっちゃんを見上げる。なんかもっと、いじわるしたい気分。  そうだ、こいつをぺしゃんこにする秘密兵器があった。  「違うよ、今晩、レストランでお食事なの。七時に多摩川さんと待ち合わせなの。回転寿司で、おなかいっぱいにしたとかいったら、おかあさんいかりくるうよ、きっと」  そこからとんとんと、ジョギングの足ぶみを始めた。よし、あと三時間あるから、カロリーをできるだけしょうひするのだ。  ひぐっちゃんは、ずれてもいないサングラスを指でおし上げた。声が別人みたいに低かった。  「そういうことは、喰う前に言え」  足をももまで高く上げるのを心がけて、ぴょんぴょんはねながら聞いた。  「いっしょに行く? なんかホテルのフランス料理みたいよ。多摩川さんよろこぶんじゃない? なかよしなんでしょ」  「ばかやろ」  ひぐっちゃんはコートのポケットに手をつっこんで、ねこ背で歩きだした。  はねながら追いつく。  「おこった?」  「ああ?」  聞き返したのと同時に、にぶい音がひびいた。  ひぐっちゃんは、電柱に真正面からぶつかっていた。  「だいじょぶ?」  電柱をだいて、初めてあたしに気がついたみたいに首を回した。おでこから鼻筋までが、赤くなりはじめている。  あたしは少しはなれて、ひぐっちゃんが自分で歩きだすのを待った。  二人とも、だまったまま駅まで歩いた。  とんとん、がちゃがちゃ、あたしとランドセルのとびはねる音がひびく。  ひぐっちゃんは歩きながら、サングラスをつけたりはずしたり、空にすかして見たりした。  人の出入りがだいぶ多くなった。もうすぐ駅だ。  駅の階段の前まで来ると、ひぐっちゃんは止まった。  えらそうな大人の声でいった。  「おい、小学生。真っ直ぐ帰れよ。鏡子さんが帰ってきて、いなかったら心配する」  「あいよ」  あたしはとびはねながら、手をふった。
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