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店内に映し出されているテレビのニュースが目にとまった。
私は「それよりも物騒と言えばさあ・・・」とあごでテレビの方向をしゃくってみせた。楓もテレビの方向を振り返る。
テレビ画面には「深夜の凶行」という仰々しいテロップとともに連続通り魔事件の続報が流され、犠牲者はひとり増えて6人になったとアナウンサーが沈痛な面持ちで報じている。犯行はいずれも私たちがいる隣の町で行われており、平和で静かな地方都市を揺るがす大事件だった。
「この世の物騒を全部抱え込んだような事件だよね」
私の言葉に楓がこちらを向き直ると、「ほんとほんと、まだ犯人捕まってないんだね。もしかしたらこの辺に潜んでいるかも」と店の外の通りを見渡している。
しかし周囲を捜したところで、肝心の犯人の顔すら判明していなかった。
犯人は犯行時にフードを着用し、顔を見せないように犯行を繰り返していた。凶器も見つかっておらず、犯行が決まって雨の日に行われることも犯人への手掛かりを少なくしていた。
「でもその人ってさ、夜に仕事をしてるってことなの?」
楓から急に話しかけられて、最初はなんのことを聞かれているのか分からなかった。
「夜に仕事?だれ?犯人?」
通り魔の犯行を仕事と言うのであればそうかもしれない。
「違うよ」と楓は苦笑いを浮かべている。「由紀と一緒に住んでるルームメイト」
「ああ、そうなんじゃない?知らないけど」
同居人の情報は全くといっていいほど知らされていなかった。それは向こうも同じはずで、私とは逆に夜の8時から朝の8時まで家を空けている同居人は、おそらく夜勤労働者だろうと勝手に解釈していた。というより自分に言い聞かせていた。
私と楓は他愛のない話しをしながらデザートまで食べ終え、店を出た。
楓に感謝を伝え「また連絡するから」と、駅へと向かう信号の前で別れた。
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