アムリタの告白(1)

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アムリタの告白(1)

 私、こんなに明るいのに雨女なの。自己紹介の通り、ベッキー・ベイカーが訪ねてきた日の空はこの世の終わりかと思うほどの大雨であった。 「ひゃー、濡れた濡れた」  パリでも、ロンドンでも、ローマでも。ベッキーの姿は街に溶け込む。波打つ豊かな髪とこんがり焼けた肌。体を鍛えるのが日課なだけあって、腕や太ももにたるみはない。  服は全く気取っておらず、音楽フェスのロゴの入ったTシャツとそれにマッチするようなクロップドパンツを着て、素足をスニーカーを突っ込んでいる。全てが黒色だった。化粧はほとんどしていない。 「ハーイ、マルコ。元気だった?」  マルコと呼ばれた神父はベッキーの白い歯を一瞥した。質問には返事をせず、教会の中に入るよう促す。  後ろには世界企業の要人を護衛するスーツ姿の男が二人いる。彼女のために傘をさしているが、どちらも自身は覆い隠せていなかった。裾から雨水が滴っている。 「ああ、床が濡れちゃうのが嫌なら外で待機してもらうけど」 「構わない。ここはいつもガラガラだ」 「日曜日よ、神父様」  痛烈な皮肉だ。言い返しても良かったが、マルコは黙った。この友人に喋る余地を与えたら、朝から晩まで喋り続ける。     
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