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途中、パトロール中の警官とすれ違う。マルコは相手の体格と、歩調、腰に下げた拳銃の安全装置の作動状況を確認し、「これなら3秒いかないな。間合いを詰めて、腕を取り、脇を釣り上げて、膝裏を蹴り抜く」とイメージした。正確に言い直すなら、ーー〝してしまった〟。
「…はあ」
無意識だった。職業病が治っていない己にがっかりした。
腰のロザリオが右へ左へ揺れる。先を行くベッキーの足取りはいささか早い。マルコは昔の歩き方で追いかける。踵を鳴らす、軍隊仕込みの力強い歩みだ。
ベッキーはある扉の前で立ち止まった。「STAFF ONLY」と記された扉には指紋認証用のリーダーが設けてある。
「登録しているのか?」
「うんにゃ」
言葉の通り、細い指を突っ込む気配をすらない。だというのに、錠の回る音がする。
マルコは目をむいた。
「どういうことだ?」
「あれ」
ベッキーは天井を指す。監視カメラが備え付けてある。
「モブのメインボタンを押すまでもないのよ」
アムリタには〝見えてる〟ということだ。マルコは理解はできても、納得しきれないまま小さく頷いた。
勝手知ったる顔でベッキーは業務用のエレベーターに乗りこむ。マルコも後に続く。あくまで想像だが、関係者以外立ち入り禁止のエリアに入る瞬間の映像はアムリタによって削除される気がした。
GF(Ground Floorの略)を指したまま、エレベーターは降下を続ける。一階分の移動にしては長すぎる時間がたった。
扉が開く。
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