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視界に飛び込んできたのは、駅とは程遠い空間だ。ベッキーが演技ぶった調子で手のひらを広げる。
「ディズニーワールドのスター・ツアーズみたいでしょ?」
「……行った事がない」
「確かに、行きたがらなそう」
クスクスという笑い声が漏れる。マルコは宇宙船のような青と銀を基調とした内装を一瞥し、反論を胸にしまった。口に出していいのであれば、「悪いが我が家は揃ってスター・トレック派だ」であった。
マルコの妻は、マルコの三倍笑う女性だった。お前には勿体ないくらいのチャーミングな娘だよ。そう、子どもが生まれても言われ続けたものだ。
軍という仕事柄、電話すらままならない。帰ってこれるのも年に1回か2回ほど。それでも会えば、初めてのデートで見た顔がある。それがマルコの誇りであり、幸せの拠り所でもあった。
(俺は毎日尋ねている…)
三人でどこか旅行に行きたい。妻の他愛もない思いつきに応えたことが罪だったのか。
任務が予定よりも三日遅れると聞かされた時、上官に黙って従ったことへの罰なのか。
マルコがこの世でもっとも愛した二人の骸は、アムステルダムのクレーターからは見つからなかった。他の被害者同様、骨まで溶けた。
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