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「そりゃそうよ。アムリタの学習に必要なのは〝会話〟なの。それも、全世界何兆何京何垓という会話。私一人じゃ無理だわ」
「ビッグデータか」
「イエース」
人差し指を天井に向けたまま、ベッキーはくるりとターンする。
「アムリタの親はこの世界に何千人といるわ。リリースしているクラウドサービスは学習と並行して運用しているから、ある意味では何億人ものヴォルカニック端末ユーザーがアムリタのベビーシッターであり、ティーチャーであるってことになるのね」
「…その中にカトリックの者は?」
「いるでしょうね。誰が吹き込んだのかはさっぱりだけど、アムリタは神様への懺悔というものがこの世に存在していることを知って、それを利用したいと思ってしまった」
「私自身は無神論者だけど」と一言添え、ベッキーは今度こそ認証を通した。虹彩での認証だった。
音もなく扉が開く。木目を意識したインテリアが二人を迎えた。
「ここはリフレッシュルームね。私ここで待ってるから」
聞き捨てならないセリフだ。マルコは慌てて確認した。
「一人で行くのか?」
「大丈夫。とって食われやしないわ」
「だが…」
いくつか反論の言葉が浮かんだが、声に出すことはない。こういう躊躇いの積み重ねが、マルコに「口の固い男」というイメージを定着させた。
代わりに尋ねた。
「行けばわかると?」
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