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「ええ。向かいの部屋よ。扉はここを含めて開けておくから……」
ベッキーの顔から笑顔が消えた。マルコの荒れた手に己の手を重ねる。
「アムリタのこと、お願いね」
意外なことに、太陽に愛されていそうな色した手は軟膏の欠かせないマルコのものよりも冷たかった。
□
リフレッシュルームと大差ない外観の扉が開く。突き当たりの壁が見えない。奥ゆきや天井高を知るには、明かりが足りない。
マルコの鼻と舌が違和感を捉えた。ヴォルカニックの心臓というべきAIがいる部屋。その空気は、廊下とは何かが違う。
モブのライトをつけて、暗闇を照らし出す。
部屋に白く濁った光が差し込んだ。
(水蒸気?それとも…?)
有毒ガスの可能性が頭をよぎる。マルコは袖で口元を覆った。
踵を返してベッキーのところに戻るか。必死なエンジニアの言葉を信じて前に進むか。
判断する時間は貰えない。
「ミスター。どうぞ、そのままお入りください」
ストレイモイ島で聞いたものと同じ、中性的な声。低く、ハリがある。若いということしか読み取れない。
マルコは静かに嘆息した。
(5分後にはカメラを持ってやってくるだろう)
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