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例えば、一日に数時間、会話の反応がつれなくなる時を設ける。所謂、虫の居所が悪い状態をわざと作るのである。そうすればユーザーはAIをミシンや冷蔵庫以上の何かと信じる。
人間に近い形が与えられていれば、尚更だ。
強い仮説を持って尋ねたのだが、見当違いだったらしい。マルコは自分に呆れてため息をついた。
「自己紹介もまだだったな。俺は…」
「承知しました」
唐突に、アムリタが言葉を遮る。一体何を?と言いかけて、マルコは直前アムリタとどんな会話をしていたかを思い出した。
心臓が跳ねる。戦場で敵のスコープの反射を見たときのように。
「いいのか?」
つい、低い声で尋ねてしまう。アムリタの歯切れが一気に悪くなった。
「ただ……その…、うまくお話しできる…………自信はありませんが」
アムリタは「自分を疑うAI」。ベッキーの誇らしげな紹介が蘇る。自信満々に場違いな回答をする人工知能とは一線を画する存在。確かに…確かに、だ。
マルコは「構わない」と告げた。
「俺だって緊張している。教会が人里離れすぎて、来る者も滅多にいないからな。最近会ったのは迷子になった羊くらいだ」
「ふふっ」
思いがけぬジョークにアムリタが笑った。
「フェロー諸島は素敵な所です。一度でいいから行ってみたい」
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