アムリタの告白(1)

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 また景色が切り変わる。マルコのよく知るストレイモイ島の曇天だ。羊が一匹、舗装されきっていない車道を歩くところまでそっくりそのままである。ホログラフィックライブに使う冷えた空気は今度は良くあっていた。 「?」  マルコの目が、誰かが遠くから歩いてくる事実を捉える。裸足であることがまず目についた。  薄っぺらいパジャマ姿だ。夢の中からやってきたと言われても信じてしまう。顔立ちが見えるようになる。ローティーンの、女の子だった。  身長はマルコより頭二つ分程低い。袖や裾から覗く手足は細く、白い。肩口に切りそろえた髪すらも、白い。 「君が……?」  少女は羊と共にやってきた。  恥ずかしそうに、緑色の瞳を伏せながら。 「初めまして、ミスター……アムリタです」  パジャマのボタンをかけ間違えたAIは、か細い声で名乗った。  緊張しているのだと、すぐにわかった。目を合わせようとすると逃げてしまうから。  瞳を囲うアイラインの端を蔦のように伸ばし、葉を描き込んでいる。ホームページにあったロゴと同じ模様だと、マルコはすぐに理解した。  アムリタは薄い唇を開けた。 「その……本当に、遠くからご足労いただきましたこと…えっと、お礼申し上げます」 「あ、ああ」  姿を見せる前がハキハキであれば、今はおどおどだ。曖昧な頬笑みの上にあるエンペラー・グリーンの瞳は右へ左へ動き続ける。     
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