アムリタの告白(1)

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 まずは映像を作る。マルコの前まで羊と共に歩いてくる、人間離れした外観をした仮想少女、アムリタの映像だ。声を担うのは部屋でマルコの話を聞いている本物の女の子である。  問題は口元の動きだ。映像先行で、もともと口元の動きが決まっていては実在する少女は臨機応変に喋ることができない。  逆に実在の少女が好き勝手に話せば、仮想の少女と整合性が取れなくなる。  カバーするには、実在する少女が今どんな口の動きをしているのかを瞬時に解析し、仮想少女を動かす技術が必要だ。  ヴォルカニックならやってのけるだろう。 「…えっと」  アムリタは困った顔で言葉を探す。こちらが謝りたくなるような不安げな表情だ。たっぷりと時間を開けた後、小さな声で尋ねた。 「………ベッキーから何も聞いていないのですか?」 「何を?」 「アムリタのことをです」    体が傾く。袖を引っ張られたのだ。  誰に?    アムリタに、だ。 「!」  マルコの脳が悲鳴をあげた。  ホログラフィックライブじゃない。  この子は実在している。 「ここにはデルタ便で来られたのですね。映画の種類は多かったと思うのですが。ああ、でも、あまり見られなかったんですか。ミスターが座られた座席F-12の上映記録は一本だけ。地獄の黙示録です」  つい2時間前の出来事だ。無論誰にも話していない。知るにはデルタ航空の保護されたデータを読み取る必要がある。     
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