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初めて見るわけじゃない。シリアでもロシアでも、見てきた姿だ。骸の濁った瞳にさえ、影は人の形を保ったまま降りる。
「どういうことなんだ……」
手で顔を覆う。指の隙間から溢れたのは、嘆願にも似た弱々しい声だった。
「無理だ……混乱している…。順序立てて説明してくれ」
「いいわ」
ベッキーは、「説明してあげる」と続けた。語調に高飛車な感じはなかった。
「全てはあの日に還っていくのよ、マルコ。私の因縁であり、あなたの因縁でもある。あの光が、アムリタを作った」
ライト・デイ。
マルコの地獄が蘇る。
運河は死体で堰き止められた。赤レンガの壁とくっついてしまった骸が風に遊ばれている。ガラスが背中に突き刺さった、あるいは手足が欠けた状態で、道を行く避難者達。緊急車両の初動は早かったが、早かった分、消防車や救急車は死体を轢いて進むしかなかった。
同じような景色がベッキーの目にも浮かんだのだろう。振り払うように長く息をついた。
「あの日、私は市外の病院に搬送された。そこにある兄妹が運ばれてきた」
名前はアンブローとリタ。歳は後に16歳と8歳であることがわかった。二人とも瀕死だった。
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