アムリタの告白(1)

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「そうだっけ?」とベッキーは首を傾げた。  二人がともに過ごした期間は短い。半年、同じリハビリセンターに居ただけだ。話はたっぷりしたが、パーソナルな情報が定着するほどではなかった。 「それでも、あなたは私に再就職先を教えてくれるのよね」 「軍と縁を切ったら片手で数えるくらいしか連絡する相手がいなかったものでな」 「ハハ、寂しい話」  ベッキーは長椅子にどかりと腰掛ける。「それとも、」と次の発言のために間をとった。 「寂しくなりたかったから、それで良かった?」  デンマークは北大西洋に多くの島を有する国だ。代表格はグリーンランドである。マルコが住んでいるのはコペンハーゲンから飛行機で2時間の距離にあるストレイモイ島の僻地である。島の中心地であるトースハウンの港と対極に位置する場所に、マルコの小さな協会はあった。 「涙が出るくらいに自然が綺麗ね、ここ」 「毎日薪割りと水汲みが必要な場所に住みたがるような変人しかいないからな」 「言うと思った」 「何を?」 「気づいてないの?照れると自虐を言って突っぱねるところあるのよ、あなた」  ベッキーはマルコの顔を見つめる。     
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