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「なぜ世界は技術だけが進歩していくと思っているの。パラダイムシフトって言葉知っているでしょう?技術と一緒に倫理や価値観は変わっていくものよ。そうやって便利さを手に入れてきた。私たちは世界が回転している概念を受け入れたことで、安全な航海技術を手に入れた。体にメスを入れることを受け入れたことで、長い寿命を手に入れた」
怒りに我を忘れているという感じはない。むしろ、ベッキーは笑っている。始まったディベートを白熱させるため、わざと声を張り上げ、腕を広げている。
「生命機能を補佐するという意味ではペースメーカーだってあるわ。場所が脳に変わっただけじゃない。何が違うっていうの?」
マルコを煽るには十分だ。
「生体医工学の権威である君には釈迦に説法だが、脳は個人そのもの!いわば魂と直結する場所だ!!他の箇所の治療とは訳が違う!!!大体…っ!!」
こらえきれないため息が漏れる。
マルコは疲れを目に滲ませた。
「……………あの子は、自分を一体〝誰〟だと思っているんだ?」
脳の持ち主である現24歳のアンブローか?
それとも、体の持ち主である現16歳のリタか?
はたまた、二人の肉体を管理する稼働8年目のミュートか?
「さすがね、マルコ。昔と変わらず、余計なことを聞いてこないわ」
ベッキーはもう一度マルコにコーヒーを勧める。床はモップを装着された掃除ロボが磨き上げていた。
「アムリタは、アンブローともリタとも似ていないわ」
「二人の両親は?」
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