アムリタの告白(1)

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 童顔、と称しただけあってマルコの顔のパーツは周囲の平均よりも真ん中によっている。所謂ベビーフェイスだ。二十歳と主張しても通るだろう。  窪んだ瞳に影を下ろしていなければ。もう一つ言えば、こめかみから目尻にかけて痛々しく走る傷跡がなければ、だ。 「……本当、よく生き残ったわ」  声に愛おしさが滲む。心から思っている言葉だと、マルコにもわかった。 「俺は頬を切ったくらいだ。君こそよく生きのびた」 「私だって鼻血を出したくらいよ」 「三日間止まらない鼻血だろう。放射線検査を五回も受けたのは君くらいだ」 「ああ、あったわね。そんなこと」  甲高いベッキーの笑い声が聖堂に響く。つられて笑うことはできない思い出だ。  201X年、ユーロを満たしていた緊張は無差別テロによって文字通り大爆発した。  攻撃を受けたのはオランダだ。アムステルダム中央駅が震源地となった。街の半分以上がアイ湖…北海と言い直した方が良いかもしれない…に沈んでしまった。死者は、街一つ分と称して問題ない。  犯人は声明をあげなかった。自爆テロだったのではないかという憶測が飛びかったが、定かではない。各国の必死の捜査も虚しく、未だに爆弾の持ち込みルートすら特定できていない。  ただ、核が使用されたことだけは明らかで、隣国ベルギーからも爆発の光を確認できた。     
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