アムリタの告白(1)

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「どうかしらね。最近はリモートワークってのが働き方のメインストリームになっているから。ネットワークがある限り、どこにいたって変わりやしないと思うんだけど。って、ああ、失礼。言った矢先に呼び出し来ちゃった」  ベッキーは尻ポケットからモブ(携帯端末)を取り出した。そそくさと入口に向かって行く。あれだけ遠慮なくぺちゃくちゃ喋っていたのに、電話の音は全然聞こえてこない。 (警戒していてもおかしくはない)  マルコは推測する。  ベッキーからすれば自分は世界シェアNo.1のIT企業の筆頭エンジニアで、相手はデンマーク特殊部隊、通称〝猟兵中隊〟にいた元・軍人だ。職業病が治っていなくて、つい耳をそばだてているかもしれないことくらい、想像の範疇だろう。 「うん。うん。はーい。じゃあね?」  砕けた切上げ方と共にベッキーは戻ってきた。「部下か?」と問えば、「うんにゃ」という返事だ。 「社長よ。なんで待ち合わせにこないんだって怒ってたわ。あれはちょっとじゃなくてかなりね。やんなっちゃう」 「場所は?」 「南極」  ベッキーは外の天候を教えるように告げる。マルコは何も言わなかった。   「単刀直入に言うとさ、神父さんを探してるのよ」 「ヴォルカニック本社はシンガポールだったか?神父くらい、あそこにもいるだろう。ムスリムだって、ヒンズーだって、道教だって。司祭はよりどりみどりだ」     
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