8人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうかしらね。最近はリモートワークってのが働き方のメインストリームになっているから。ネットワークがある限り、どこにいたって変わりやしないと思うんだけど。って、ああ、失礼。言った矢先に呼び出し来ちゃった」
ベッキーは尻ポケットからモブ(携帯端末)を取り出した。そそくさと入口に向かって行く。あれだけ遠慮なくぺちゃくちゃ喋っていたのに、電話の音は全然聞こえてこない。
(警戒していてもおかしくはない)
マルコは推測する。
ベッキーからすれば自分は世界シェアNo.1のIT企業の筆頭エンジニアで、相手はデンマーク特殊部隊、通称〝猟兵中隊〟にいた元・軍人だ。職業病が治っていなくて、つい耳をそばだてているかもしれないことくらい、想像の範疇だろう。
「うん。うん。はーい。じゃあね?」
砕けた切上げ方と共にベッキーは戻ってきた。「部下か?」と問えば、「うんにゃ」という返事だ。
「社長よ。なんで待ち合わせにこないんだって怒ってたわ。あれはちょっとじゃなくてかなりね。やんなっちゃう」
「場所は?」
「南極」
ベッキーは外の天候を教えるように告げる。マルコは何も言わなかった。
「単刀直入に言うとさ、神父さんを探してるのよ」
「ヴォルカニック本社はシンガポールだったか?神父くらい、あそこにもいるだろう。ムスリムだって、ヒンズーだって、道教だって。司祭はよりどりみどりだ」
最初のコメントを投稿しよう!