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「訂正する。頭が柔らかくて、でも口は固くて、人のいい神父さんを探してるの」
「何故?」
凄んだ声に入り口で待機していた護衛が反応した。目は、的確にマルコとベッキーの距離を図っている。誤射で殺すリスクといい直してもいい。元・同業者だろうとマルコは暗い目つきの奥で悟った。
対するベッキーは数回瞬きをした。そよ風が当たったような顔だった。
「ねえ、マルコ。うちの〝アムリタ〟ってクラウドサービス知ってる?っていうか使ったことある?」
「……すまん」
「謝ることじゃないよ。丁度いいや。あなたのモブ貸して」
カソックのポケットから手のひらに収まるサイズの端末を取り出す。手は、驚かれるほどに荒れている。素手でライト・デイの焼けた瓦礫を触ったからだ。
マルコの先代の端末はアムステルダムで完膚なきまでに壊れた。写真をパソコンに吸い上げるような習慣を持っていなかったので、葬式の遺影を用意するのにも苦労した。
ベッキーは「わお、博物館に展示できそうなモデル」と一言挟んでからメインボタンを長押しする。アシスタントサービスが起動する。
早口で話しかけた。
「モイモーイ、アムリタ」
「あのな」
そういういらんボケが会話のテンポを崩すんだ。非難の色を顔に映すが、涼しい顔だ。
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