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「わかってる、わかってる」
何がだ、と尋ねようとして口を開けたが、マルコは何も言わなかった。正確には、言えなかった。
己でもベッキーでもない。第三の声が、代わりに応えたからだ。
「ミスターが呆れた通りです。そこはデンマークで、モイモイはフィンランド語の挨拶ですよ。ベッキー」
マルコは息を飲んだ。
「これが…?」
ベッキーは瞳をすがめる。猫のような顔だった。
「進んでるでしょ?」
「…ああ。素直に驚いている」
まずは声だ。マルコが知っているAIサービスの声はもっと単調だった。深みのない、人工的なものだ。人間の口とは小さなオーケストラホールだ。反響し、複雑な音を作りげる。完全に追従することは不可能と言われてきたが、ベッキーをはじめとしたヴォルカニックの優秀なエンジニアたちにとっては朝飯前の仕事だったのかもしれない。
中性的な声だ。発音は流暢で、聞き取りやすい。
そして何よりもマルコが驚いたのは…、
「文脈も、語調も理解しているのか」
「すごいでしょ?」
「深層学習か」
「そうそう、よく知ってるね!」
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