アムリタの告白(1)

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 動作直後のAIは場当たりに答えを出し、失敗をし続ける。失敗を繰り返すことで、「この質問の場合は、何をしたら成功になるのか?」という法則を見つけ出していくのだ。この作業を「学習」と呼ぶ。それを更に複雑化したものが深層学習だ。  長い学習を乗り越えることでAIはやっと最低ラインがこなせるようになる。膨大なデータと処理時間をかけてもだ。  便利、さらにはその上の評価を得ることはなかなかできない。会話、専門用語でいうところの自然言語処理分野では特にである。  AIは言葉を記号でしか扱わない。マルコが口走った「あのな」とは、AIにとっては相手の注意を引くためのフレーズでしかない。字面通りに捉えて、「はい。質問をしてください」と返事するだろう。人間のようには振る舞えない。人間には、プログラムが理解できない部分が多すぎるのだ。  だが、ヴォルカニックが開発したアムリタは明らかに違う。ベッキーの台詞の突っ込みどころを理解しているし、それを聞いたマルコがベッキーをどう思ったかも憶測した。莫大な数の会話パターンを処理し、経験を積まなければできない芸当だ。 (これじゃ……)  アムリタの声が自然なことも手伝って、マルコは大いに困惑した。恐怖すらも感じる。 (本物の人間と区別ができない)  ベッキーはデモンストレーションとして、アムリタと会話してみせる。 「アムリタ、今日なんか面白いことあった?」     
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