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アムリタの告白(2)
マルコはもう一度傷ついた手で顔を覆った。吠える体力は残っていない。囁くのがやっとだった。
「…………許されるはずがない」
誰もが一度は考えることだ。そして可能性を排してきた事象でもある。
神父は囁いた。
「脳の……移植だぞ?」
「そうよ」
ベッキーは眉をひそめる。咎められる節はないと言わんばかりの仕草だ。
マルコは反射的に創世記の一節を思い出していた。子どもができないと家族をなじったラケルにヤコブが放った一言である。
〝お前に子を宿すことができるのは神だけである。私が神に代わることなどできようか〟
生と死は神の領域。そう、過去の人間は言っている。
マルコは今を生きているベッキーを見た。目の前に立つエンジニアの瞳や口の形は天才と呼ぶにふさわしい自信と高大さが備わっている。どんな手段であれ、悲劇に襲われた兄妹を死の淵から掬い上げたことを誇理に思っている。
「……。……」
迷い抜いた末、マルコは己の体に従った。
つまり、理性を抜きにして思ったままに告げた。
「命の冒涜だ。受け入れられない」
「ウーップス、マルコ。まさかあなたまでとはね!」
予想していたことだが、ベッキーの長口上がはじまった。
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