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『なに大声で泣いてんだよ、前田!』
夕暮れの日に照らされて、鳥居の方から走ってきたのは一人の少年だった。一年生の頃からずっと同じクラスで、何かにつけて穂花に意地悪してくる男の子だった。
そう、あの日。一人で傷つき大泣きしていた穂花を見つけたのは、他の誰でもない笹野だった。笹野は穂花を見つけると、自分が買ってきた一本だけのラムネを泣いている穂花に差し出してきたのだ。
泣きすぎて喉がカラカラだった穂花は、そのラムネを一口飲んで、そのあまりの美味しさに涙が引っ込んでしまい、そんな穂花に、笹野はカラリと笑顔を向けるのだった。
ともすれば大嫌いな場所になってしまうかもしれなかったこの神社は、いつしか穂花にとって、かけがえのない場所になっていた。
それは笹野の笑顔と、ラムネの味も一緒に。不意に思い出した大切な記憶に、穂花は思わず胸を押さえた。
「お前がよくこの階段登っていくの、俺知ってたんだ。だから、今日も絶対来るって思ってた」
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