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カナカナカナカナ……
夏の音がする。
湿った空気。落ちる夕日。潮の香り。
夏の夕暮れは、いつも不思議と切ない想いを掻き立てる。虫の音をどこか遠くで聴きながら、前田 穂花は長い階段を登り切り、赤い鳥居をくぐった。
額に浮かんだ汗がほおを伝い、顎の先から地面へと落ちる。うだる様な暑さが全身にまとわりつくようだ。
「風がないなぁ、今日は」
セーラー服のスカートの裾を翻し、少女は境内を軽やかに進んでいく。この小さな神社は高台にあり、階段も多いため村民はあまり来ない。
穂花は夕暮れ、この神社で過ごす時間が好きだった。家に帰ればうるさい弟たちがいたし、高校からの帰り道にほんの少しだけ一人きりの時間が作れるこの神社は、少女にとって大切な場所だった。
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