夕暮れの潮騒

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 境内は鬱蒼とした木々で生い茂り、青々とした葉が影を落としている。あと数時間もすればうっそりと暗がりに包まれてしまい、一気に雰囲気が変わるのを穂花は知っていた。  さすがに外灯のほとんどない無人の神社に、遅くまではいられない。けれど、穂花は夕暮れから夜に変わる間際のこの時間が、たまらなく好きなのだった。  いつものように古ぼけた拝殿の隅に座ろうとしたとき、穂花は先客がいることに気がついて足を止める。まさか誰かがここにいるなんて思いもしなかったから、残念に思いつつ人影を確かめるように首を伸ばした。 「……あれ。笹野くん?」  思わず名前を口にすると、拝殿の柱の影に佇む青年が、こちらに顔を向けてくる。そこにいたのは、隣のクラスの秀才、笹野 耕哉(こうや)だった。小・中学校となぜか腐れ縁でずっと同じクラスだったけれど、高校にあがってから同じクラスになることはないまま高校二年になっていて、声をかけるのも相当久しぶりだ。 「よぉ」  笹野は久しぶりとは思えないほど砕けた雰囲気で片手を上げる。穂花は面食らって立ちすくんだ。まるで自分のことを待ち構えていたかのように、笹野はこちらに近づいてくる。
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