1章 人生は暇つぶし

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「皆さん、三十分の休憩になりました。休憩室の方へ移動して下さい」  俺は作業室に均等に並んだ机に向かう生き物達に声をかけた。この合図で彼らは手を止めてぞろぞろと立ち上がる。生きているのか死んでいるのか分からない背中がゆらっと同じ方向に歩いてゆく様はいつ見ても不気味だ。  作業室から皆が廊下に出て行く中、一人だけ机に座ったままの奴が居る事に気づく。席に行き「ほら、立てよ…愚図が」と低い声で囁き無理矢理腕を引いてイスから立ち上がらせる。  年が三十半ばの男は言語障害者だ。言い返す事もせず表情を固くさせながらのろのろと皆について行く。作業室を見渡して一人も残っていないのを確かめ自分も後を追うように廊下に出た。  ここは障害者支援施設の工場だ。自閉症とか片足がない奴とか言語障害などの一般障害者が働けるように市が運営している工場で、簡単な手作業や木材加工などを請け負っている。四十名ほどの作業員と、それを  監視する俺みたいな管理員が何人かいる小規模の工場で。
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