4章 黒い目

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「なんだ………ぁ――――――」  お菓子の棚から振り向いた俺は目を丸くして固まった。 「よぉ、元気そうじゃねぇか、ん? 一茶」  俺は不覚にも相手が側に寄るまで気づかなかったらしい。  通路を阻むように長い足を広げて男が立っていた。 クリーム色のスーツから覗く釦を大きく開いた赤いカッターシャツ、首元には重たそうな金のネックレスをぶら下げて、どこか酷薄そうな笑みを浮かべ男は親しげに手を上げている。  庶民的なスーパーで周囲から浮いてしまう存在感。どう見ても堅気の人間ではない。  俺の裾を握って離さない達生は子供特有の鋭い勘でその男を不審人物だと判断したらしい。俺の背後に身を縮めて隠れてしまう。 「そんな嫌そうな顔するなよ、昔馴染みじゃねぇか?」  声を掛けられて、俺は心の中で舌打ちをした。 (……何が昔なじみだよ………)  確かに同じ施設で育ったが、この三つ上の徹也には散々な思いをされられた覚えしかない。
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