1人が本棚に入れています
本棚に追加
/217ページ
その子はとても素直でやさしく、また行儀もよかった。
歳のいった夫婦にとっては手が掛からない子だったため、しつけなどに苦労をすることなく、ただ穏やかに毎日を過ごすことが出来た。
その子が学校から帰って来ると、妻はケーキを出してくれた。
夫は日曜日に外へ連れ出した。
新しい服やバッグを買ってあげ、これまで出来なかった愛情を注ぐことを十二分に行った。
「ご両親が早くに亡くなって、さぞ寂しかっただろう」
「私たちの命が続く限り、あの子を見守りましょう」
「そうだな。だが、もしもという時のために早めに手続きをしておこう。遺産相続の件を」
夫婦は幸せだった。
もちろん、これまでも十分に幸せだったが、今の初めて感じる幸せは二人に新たな気持ちを芽生えさせた。
最初のコメントを投稿しよう！