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入口まで溝内が駆け寄ってきた。近寄ってきたときに今まで小さいと思っていた溝内が大きく見えてしまった。焦って思わず一歩後ずさった。
「先輩と一度でいいから同じコートに立ちたかったんです。時間ももうほとんど残ってないですしね」
嬉しそうに溝内が笑う、その瞬間に何かが腹の奥で動いたような感覚が起きる。
「別に……いつだって、遊んでやるよ。俺は帰る……」
踵を返した瞬間に腕をつかまれた。
「先輩、練習今日は午前で終わりです。その後、ここで、体育館で、待ってます」
小声でそうささやくと、溝内はコートの中へと駆け戻っていった。「馬鹿野郎、誰がくるか」と答えるはずだった。けれど言葉は出ることはなく、その言葉自体を飲み込んだまま消化不良を起こしそうになっていた。
自転車置き場まで戻った時に自分が何をしに来たのか思い出して驚愕する。
「俺は……溝内に会いに来たのか?」
間違いなくそうだ、落ち着かない気持ちの理由も、まるで何かに腹を立てているような自分の気持ち悪さも、全て溝内が絡んできたときにだけ起こるのだ。
「嘘だろ……俺はどうしたいんだ?」
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