眠りたい僕と、眠たい彼

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 「ん」  目の前に1枚の名刺が差し出された。  反射的にそれを受け取り、書かれていた文字を読み上げる。 「おひるねカフェ・店長……。北川(きたがわ)……」 「揚羽(あげは)」 「あげは……さん? アゲハチョウの『揚羽』だ。名前、かっこいいですね。カフェの店長さんなんですか」 「うん。だから、怪しい者では、ない」 「……? はい。すごいですね、若いのにカフェを経営されているなんて」  思ったことをそのまま伝えると、彼はすこし驚いたように僕を見た。 「……べつに。好きでやってることだし……」 「でも、自営業で生計を立てるって大変じゃないですか。カフェかぁ……いいですね。僕も時間があるときは大学の周囲を散歩してカフェめぐりを――」 「…………あのさ」 「はっ、す、すみません、ペラペラと喋って」 「いや、違くて……」  彼は睫毛に触れている、やわらかそうな髪をかきあげながら呟いた。 「あんた、寝るの、好き?」  突然の質問に一瞬目が泳いでしまったけれど、すぐにピンときた。彼が経営しているという『おひるねカフェ』だ。店名から推測するに、『仮眠もできるカフェ』というコンセプトなのだろう。
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