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眠りたい僕と、眠たい彼
「──だから、家に着くのは0時過ぎるし、先に寝てていいよ。萌恵はあした早いんだろ? ……あっやばい、走らないと。切るよ。うん、うん。おやすみ!」
発車のベルが鳴り響く中、僕は23時発の最終電車にすべりこんだ。
時間帯のせいか、始発のわりに乗客はまばらだ。ドアから少し離れた座席に腰を下ろすと、窓の向こうの街並みが静かに動き出した。
論文の締め切りを一週間後に控えた僕は、連日研究室に泊まり込んでいた。
もう4日も、恋人の萌恵と顔を合わせていない。
萌恵は社会人。僕は大学生。同居を始めて半年。僕らはすれ違いの日々が続いていた。僕の帰りを待つという気持ちは嬉しかったけれど、萌恵のおしゃべりに付き合う元気は残っていない。僕は疲れているんだ。帰ったら真っ先にシャワーを浴びて、歯を磨いて、泥のように眠りたい……。
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