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僕は右隣を見上げて固まった。視線の先には、金髪を後ろでゆるく縛った20歳前後ぐらいの青年が──10月も中旬だというのに、上着は羽織っておらず、まるで近所へ散歩にでも行くかのような──白いスウェットに、足元はサンダルというラフな姿で座っていた。
彼は僕の視線を意に介することなく、ふう、と短く息を吐いてそのまま目を閉じた。どうやら眠るつもりらしい。
いつの間にか、乗客は僕と彼の二人きりになっていた。座る場所ならいくらでもある。乗降しやすいドア付近ならまだしも、彼は、あえてドアから離れている座席を――、しかも僕の隣を選んだ。なぜだろう……。
(……いや、別に意味はない……よな? たまたま、適当に座った場所がここだったんだ。きっと)
そう自分に言い聞かせて視線を向けた窓ガラスには、こわばった表情で姿勢を正している僕と、腕を組んでうつむいている彼が映っている。不用意に動けば肩が触れあいそうだ。不快なわけではないけれど、他人がこんなに近くにいると、どうも落ち着かない。とはいえ、自分から席を移るのも気が引けた。
(この人、どこまで乗るのかな)
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