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数日後のことだった。
「紅、文が届いてるぞ」
斎藤に手渡された文に名前はない。
ただ私の名前だけが書かれている。
私はその文を開いた。
僕のことを覚えているかい?
君に会いたくて文にしてみたんだけど。
覚えているなら前に君と会った場所で待っているよ。
たったそれだけだった。
だが、それでも私は分かった。
「出かける。何かあれば山崎に伝えてほしい」
私は斎藤にそう伝え、着替えて屯所を出た。
忘れるはずがない。
私のクナイを弾き飛ばし、目の前から去って行った人のことを。
「やあ。来てくれると思ってたよ」
「用件はなんだ。わざわざ呼び出しておいて」
路地裏で栄太郎と言う男に会った。
こいつしかいないと思っていた。
「ねぇ、何で土方なんかに仕えているのさ。あんな百姓上がりの奴なんかにさ」
「私が救われたからだ」
「紅が?……あっははは!!」
なんなんだろうか。
この違和感は。
前から私のことを知っているような口ぶりで言っているが、私はお前を知らない。
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