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「副長、紅です」
「おう、入れ」
一声かけて襖を開けた。
口から紫煙を吐き出しながらも机に向かっている副長がいた。
「総司と遊んでやらなかったのか?」
「副長に呼ばれていたので」
どうやらさっきのやりとりは聞かれていたようだ。
煙管を盆の上に置き、私の方に向き直った。
「また逃げた」
「また……ですか。いつも通りで?」
「ああ、頼んだ。夜目が利くのはお前だけだからな」
脱走者が出たようだ。
これで何度目かもう数えてはいない。
私がやることはただ一つ。
此処に連れ戻すこと。
だが、抵抗するようなら殺してしまって構わないというのがいつもの副長の命令だ。
「わかりました」
私は日が沈むのを待った。
逃げるのに十分な猶予は与えた。
私は逃がさない。
どんな手を使っても。
それが副長の命令である限り。
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