903人が本棚に入れています
本棚に追加
『仕事の領域』、とでもいうのだろうか?
それは、やはり分別をつけなければならない気がすると、咲耶は考えていた。
そこへ、椿から声をかけられ返事をすると、
「姫さま宛てに、文が届きました」
と、螺鈿細工が施された漆塗りの長方形の箱を持ち、椿が室内に入ってきた。
「……私に? 何かの間違いじゃない?」
咲耶が【こちら】に喚ばれたのは、昨晩のこと。
知人はおろか、顔見知り程度の者ですら、皆無に近いのだ。
そんな自分に手紙を寄越す者がいるとは、考えにくい。
「いいえ。
ハク様の対の方……つまり姫さまにと、承りました」
やんわりと椿に否定され、咲耶は不思議に思いつつ、文箱を受け取る。
ちょう結びされた、赤・黒・銀の三色を編み込んだ紐をといて、ふたを開けると、和紙が折りたたまれていた。
開くとほのかに芳香が漂い、咲耶は一瞬、良い気分になったが、直後に顔をしかめた。
(ミミズがのったくってる……)
いわゆる草書が、墨で書かれていた。
かな混じりの漢字であることは解るのだが、なんとか拾い読みしようにも、咲耶の気力は途中で燃え尽きた。
最初のコメントを投稿しよう!