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人生最悪の日だ、と、咲耶は思った。
アルバイト先の洋菓子店「ショパン」は、郊外にある小洒落た構えの店だ。
客用の駐車スペースは五台分あり従業員である咲耶は、店の入口から一番遠い場所にマイカーを停めさせてもらっていた。
たかだか10メートルほどの距離を、よろめくように歩き、車に乗り込む。
(……何も、誕生日の前日に、こんなにいろいろと起きなくても、いいじゃない……)
仕事の疲れと、自分の身に降り掛かった数々の不運に急に泣きたい気分になり、シートを倒して目をつぶる。
────涙が伝って耳のなかに入り、あわててバッグのなかからハンカチを取り出そうとした手に、封筒の硬い感触があたった。
「これ……今月分の、今日までのお給料。
松元さんには、本当、よく働いてもらってたから……こんな結果になってしまって、申し訳ないんだけど……」
閉店後、いつものように店内の後片付けを終え、あとはタイムカードを押すだけだった。
店長の村井佐智子は、おずおずと、そう切りだしてきた。
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