弐:人ならざる半獣《もの》

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「はい。お待ちです」 「うわ、そうだったんだ。 じゃ、早く返事してあげないと……」 人を介在しての手紙のやりとりは間接的な郵便くらいしか経験がなく、直接、人から人への受け渡しをすることの意味に、ようやく気づく。 人を待たせるというのは、長年の販売経験から苦手なのだ。 「あっ、姫さま……!」 あわてたように椿が声をかけてきたが、その椿のおかげで、いまの咲耶はゆうべとは違い、軽快に歩ける。 使者らしき者を求めて屋敷を歩き玄関にたどりつく。 (───ん?) 履き物を脱ぐ石段に腰かけた後ろ姿は、やけに毛深い。 ……というより、赤い法被(はっぴ)からのぞく頭と腕は、どうみても───。 (猿、じゃない!?) 咲耶の気配を感じたのだろう。 【その者】は、おもむろにこちらを振り返った。 ニホンザル、が、服を着ている。 「おっ。咲耶さまにござりますね? あっしは、セキ様の“眷属(けんぞく)”で、名は猿助(さるすけ)と申しやす。 夕べは滞りなく儀式を終えられたそうで、ようごさんした。 ハク様にもお祝いを述べたいところでやんしたが、お留守とうかがい、残念無念。 と思いきや、対の方さまには、せめてひとこと───」
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