弐:人ならざる半獣《もの》

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咲耶は、あわてて椿の側に座りこんだ。 「いやいや、椿ちゃん。そんな気にしないで? 正直、椿ちゃんがそういう風に感じるのも、ムリない話だと思うし……」 初めて会った時の、ハクコの冴え冴えとした眼差しを思いだす。 三十年近く生きてきた咲耶ですらすくんだのだ。 ハクコの感情のない話し方や態度に、年端も行かぬ者が気後れしてしまうのは、当然のことだろう。 むしろ咲耶は、(すき)のない少女に見えた椿の本心が聞けて、ホッとしたくらいだ。 “花子”という役目からすれば、褒められた言動ではないのかもしれない。 そして、仮にも“対の方”などと言われる自分なのだから、ハクコのために、椿をたしなめる必要も、あるのかもしれない。 だが咲耶は、まだ【この世界のこともハクコのことも】よく解っていない。 そういったことは、いえた義理ではないだろう。 (それに、いい歳した男が、こんな少女に気を遣わせるって、どうなのよ……) きちんと訊いたわけではないが、ハクコの人姿は二十四五の大人の男性だ。 そのくらいの年齢なら、もう少し他人に対する気遣いができても、よいのではないだろうか。
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