弐:人ならざる半獣《もの》

21/52
前へ
/876ページ
次へ
(あ! この【人】も、ひょっとしたら名無しのゴンベエだったりするのかな?) 一瞬、 「じゃあ、ゴンベエさんでもいいですか?」 などという、間抜けな返しを考えた咲耶だが、直後に、そんな考えをあっさりと否定された。 「───犬貴(いぬき)と、お呼びください」 その場で身をかがめた黒い甲斐犬が、地面に前足の爪で『犬貴』と書いた。 「へぇ、いい名前ですね。 犬貴……名は体を表すってカンジで」 思わず感心してしまった咲耶を見上げ、犬貴が、ふっと笑うような気配をみせる。 「ありがとうございます。この名は、ハク様に戴きました。 私も、良き名を戴いたと思っておりますが、肝心のハク様に御名(みな)がおありにならない…… いえ、咲耶様が居られるわけですから、すでに【御名はおありになる】のでしょうが」 犬貴に指摘され、咲耶は朝食時を思いだす。 「口にだしてはならない」のなら、念じて伝えろという高度なことを求められているのか。 無茶なことをいう……と思いつつ、試しにやってみたのだが、 「何だ。朝餉が足りぬなら、私でなく椿に言え」 と、ハクコから大食らいの烙印(らくいん)を押される始末だった。
/876ページ

最初のコメントを投稿しよう!

904人が本棚に入れています
本棚に追加