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(あ! この【人】も、ひょっとしたら名無しのゴンベエだったりするのかな?)
一瞬、
「じゃあ、ゴンベエさんでもいいですか?」
などという、間抜けな返しを考えた咲耶だが、直後に、そんな考えをあっさりと否定された。
「───犬貴と、お呼びください」
その場で身をかがめた黒い甲斐犬が、地面に前足の爪で『犬貴』と書いた。
「へぇ、いい名前ですね。
犬貴……名は体を表すってカンジで」
思わず感心してしまった咲耶を見上げ、犬貴が、ふっと笑うような気配をみせる。
「ありがとうございます。この名は、ハク様に戴きました。
私も、良き名を戴いたと思っておりますが、肝心のハク様に御名がおありにならない……
いえ、咲耶様が居られるわけですから、すでに【御名はおありになる】のでしょうが」
犬貴に指摘され、咲耶は朝食時を思いだす。
「口にだしてはならない」のなら、念じて伝えろという高度なことを求められているのか。
無茶なことをいう……と思いつつ、試しにやってみたのだが、
「何だ。朝餉が足りぬなら、私でなく椿に言え」
と、ハクコから大食らいの烙印を押される始末だった。
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