弐:人ならざる半獣《もの》

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(不思議なことは、色々と周囲で起きてるけど、私自身が【何か】できるようになるわけでは、ないんだよね、きっと) 口にだすのが駄目なら書いて伝えればよいのでは? などと、とんち的な発想もしてみた。 しかし、いざ書こうとすると、目には見えない力に阻まれ、書くことができなかったのだ。 「咲耶様」 けさ方の、ハクコの名前にまつわる事柄を思いだす咲耶に、声がかかる。 じっ……と、まっすぐで深い色をした眼が、犬貴から向けられていた。 「咲耶様。 どうか、一日も早く、ハク様に御名をお与えくださいませ。 あの方は、淋しい方なのです。 ご出生もお育ちも……他の虎様方と、違われてますから」 「ああ。確か椿ちゃんも、そんなことを言ってたわ」 「えぇ。これ以上は、私の口からは申し上げられませんが……。 ───失礼、咲耶様。 ヒトの匂いがいたします。私が咲耶様の“影”に入ることをお許しください」 鼻先を上へ向けたかと思うと、犬貴が緊迫した声をだした。 訳が分からず、「どうぞ」と応じる咲耶に、犬貴が鋭く言いそえる。 「私の頭に手を置き、「犬貴、許す」と、おっしゃってください」
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