弐:人ならざる半獣《もの》

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「え? えっと……「犬貴、許す」?」 疑問系で言いながら、ひざまずいていた犬貴の頭に触れる。 とたん、犬貴が猿助のように煙のようなものに姿を変え、咲耶の影に吸いこまれるようにして消えた。 『私はしばらくのあいだ咲耶様の“影”となり、咲耶様をお護りいたしますので、ご安心くださいませ』 一瞬、背筋にゾクッと悪寒が走り直後に犬貴の【声】が、咲耶の身のうちで響いた。 「あの……犬貴、さん? これ、一体どういうことなのか、説明してもらえます?」 状態は解るが、状況が解らない。 なぜ犬貴は、突然、姿を隠すような真似をしたのか。 「人の匂いがする」と、咲耶の“影”に入らなければならないのは、なぜなのか。 『この辺り一帯は、本来は只人である者は入れぬよう愁月(しゅうげつ)様が“結界(けっかい)”を張っておいでのはずですが……ほころびができたようです。 ハク様をはじめ他の虎様方のお住まいが点在する山野なので、神域として民には知れ渡っているはずですが、近頃は……』 急に歯切れの悪くなった犬貴の【言葉】に重なるように、がさがさという草木をかき分ける音と人の息遣いが、咲耶の耳に届いた。
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