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「……ってぇ……。やっと道らしきとこに出られた……」
(なんだ、子供じゃない)
転ぶように茂みの影から出てきたのは、粗末な継ぎはぎの着物姿の七八歳くらいの男の子だった。
裸足の足裏をさすっていた手が、咲耶の存在に気づき、止まる。
「……ねえちゃん、虎の神様の嫁さんか?」
犬貴の警戒ぶりに、暴漢を連想してしまっていた咲耶は、拍子抜けしながら応える。
「えぇっと……まぁ一応、そんなとこかな……?」
「ふーん。……白いの? 赤いの? それとも……黒いの?」
最後の問いかけに、子供の目がわずかに底気味悪く見えた。
咲耶の背筋が、また、ぞくぞくとした。
……犬貴から与えられる感覚なのだろうか?
「えーとね───」
『咲耶様!』
咎めるような犬貴の制止に、咲耶はその先の言葉をのみこんだ。
子供が、そんな咲耶をいぶかしげに見上げる。次の瞬間、おおい、と、野太い男の声がした。
「父ちゃん……?
───父ちゃん! おいら、ここだよぉ!」
子供の張り上げた声を聞きつけたのか、野良仕事風の男が、子供が出てきた所から現れた。
ホッとしたように、子供に近寄る。
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